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歩いて帰ろう

今日は「姉、ちゃんとしようよっ!」シリーズの
ヒロインの一人、柊家四女の柊 巴さんのお誕生日です。
おめでとうございます。

で、まあ、せっかくお世話になっているキャラなので
何かお祝いをしたいと思い、こんなものを書いてみました。
今日中に何とか間に合わせるために即興で書きましたので
いろいろとお見苦しい部分もありますが、ご笑覧いただければ
幸いです。

「えっと、豚ロースの薄切り400gと鶏のもも肉8枚、ください」
「あいよ」
 肉屋のおじさんが笑顔でショーケースから肉を取り出して、
古めかしい秤にかけている。
「しかし、いつものことながらひとりで買い物たあ、えらいねぇ、巴ちゃん」
「あ、あう……」
 もうとっくに「えらいねぇ」なんてほめてもらう歳じゃないんだけど、
こんなことを言われると、なんだかすごく恥ずかしい。

 木曜日の夕方、私は夕食の準備のために買い物に来ていた。
このあたりは古い住宅街で、近所に大きなスーパーや商店街がない。
だから食料品はたいてい、こういう昔からあるお店で買っている。
この肉屋のおじさんも、私が小さい頃からの顔なじみだ。
「ほい、豚ロースはオマケしとくよ」
「あ、ど、どうも」
「なぁに。巴ちゃんとこはいつもいっぱい買ってくれるからねぇ」
 たしかに8人家族が同じ屋根の下で暮らしているなんて、今では珍しい
ことなんだろう。
 私は小さい頃からそういう環境で育ってきたから別段珍しいとも思って
いなかったけれど、学校の友達にそのことを話すとたいてい驚かれる。
 しかも上に3人、下に2人の妹と1人の弟がいるというと「もしかして
巴って、かなり複雑な家庭環境で育った?」と心配されてしまう。
 複雑といえば複雑だけど、私はこの環境で育ったことを誇りに思っている。
姉さんたちも妹たちも、そして弟の空也も、みんな私の宝物だ。
 ただ……こと食事に関しては、8人も家族がいると大変だ。
それは作る量のこともあるし、それぞれ好みもバラバラだということもある。
一番上の雛乃姉さんはあっさりした味付けのものが好き。
二番目の要芽姉さんは食後のデザートに「みんとあいす」がないと機嫌が悪い。
三番目の瀬芦里姉さんはとにかく食卓に「肉」がないと怒り出す。
私のすぐ下の妹、高嶺は何を作っても文句を言う(その割には必ず食べる)。
一番下の妹の海は、時々変な食材を買ってきては自分で料理したがる(これは
家族全員のためにも、全力で阻止している)
 一応、雛乃姉さんからのお達しで「出てきたものは全部食べる」「作った人に
文句は言わない」ということにはなっているのだけど、これだけのわがままを
全部聞き入れるとなると、やっぱり大変だ。
 それでも、空也が家に帰ってきて、家事の手伝いをしてくれるようになって
からはずいぶん助かっている。
 沖縄では父さんのお友達が経営しているペンションを手伝っていたので、炊事
洗濯掃除とひと通りの家事をこなしてくれる。
 せっかく自分の家に帰ってきたのだから、ゆっくりさせてあげたいのだけれど、
空也は愚痴もこぼさず自分から手伝ってくれて、いつもすまないなと思う。

「ほい、お待ちどう」
 肉屋のおじさんから包みを二つ受け取る。
 さて、次は魚屋さんだな……とおじさんに挨拶をしようとしていると、店の奥
から香ばしい、おいしそうな揚げ物の匂いが漂ってきた。
(これは……コロッケかな?)
 ここのお店はお肉のほかにもお惣菜も扱っている。特にコロッケは昔から変わ
らない、お芋が一杯入ったホクホクした味でうちの家族もみんな大好きだ。
 その揚げたてのコロッケが店のショーケースに運ばれ来る。
(あ……)
 イヤだな、もう。
 あんまりおいしそうなんで、つい眼の前のコロッケが食べたくなってしまう。
もうすぐ夕飯だというのに。
「お、コロッケも買って行くかい、巴ちゃん?」
 私がじいっとコロッケを見ているのがばれてしまっているのか、肉屋のおじさんが
話しかけてくる。
「えっ? い、いえ、その……」
「──あ、ともねえ」
 いきなり声をかけられてびっくりして振り向く。
「空也……?」
 そこには弟の空也が立っていた。
「夕飯の買い物?」
「う、うん」
 なんだか空也に恥ずかしいところを見られてしまった気がして、いつも以上に
返事に困ってしまう。
「おう、坊主。いい若い野郎が昼間ッからフラフラしてるんじゃないよ」
 おじさんは空也のことも昔から知っているから「坊主」なんて呼び方をしている。
「ちぇっ、違うよ。姉貴に言われて、ちょっと買い物だよ」
 高嶺ったら、また空也をこきつかって。いくら弟でも、空也はお手伝いさんじゃ
ないんだから。
 海みたいに何でも空也の言うことを聞いて甘やかせるだけというのも問題があると
思うけれど……2人を足して2で割ればちょうどいいくらいじゃないかな。
「あ、この匂いは……コロッケ?」
「おう、たった今揚げたてのホクホクだぞ」
 空也はあたりをキョロキョロと見回してから、おじさんに注文した。
「じゃあ、コロッケ二つ」
「あいよ」
 二つだけ注文するなんて、どうするんだろう。
「あ、テイクアウトだからね、おじさん」
 空也はそう付け加えた。
 おじさんはケースからコロッケを二個取り出すと、ひとつずつ小さな紙の袋に入れて
空也に手渡す。
「はい、ともねえの分」
「えっ?」
「今日は俺のおごりだから、遠慮しないで食べてよ」
 空也が差し出したコロッケの入った袋を手に取ると、まだホカホカしていた。
「何が『俺のおごり』だよ。二つで120円だろーが」
「大切なのは金額じゃなくてハートだろ、おじさん」
 空也が笑って応える。
「あ、このことはみんなにはナイショだよ。俺とともねえだけの秘密」
(秘密、か……)
 私と空也の間には、他のみんなには言えない大切な秘密がある。
 家の蔵で見つけた不思議な指輪の力によって、私が異形の戦士「ジガ」に
変身出来ること。
 その戦士の力で、異形の者「クロウ」たちと戦っていること。
 そして、その戦いに巻き込まれて重傷をおった空也を助けるために、
血の契約を結んだこと。
 いつかは全部、みんなに話さなければいけないと今でも思っている。
でもこの事実を知ったら、私はみんなと今迄と同じように暮らしていけるのか、みんな
は私を受け入れてくれるだろうか──どうしようもない不安に襲われて、夜中にひとり
泣くときもある。
 そんな私を、空也は折に触れて励まし、なぐさめてくれる。
 私が今日まで戦ってこれたのも、空也がそばにいてくれたからかもしれない。
 そんな秘密に比べたら、実に些細で微笑ましい秘密だ。
 でも、ささやかであっても、空也とこんな秘密を共有できるのは……うれしい。
「ほらほら、熱いうちにがあっと食べて、証拠隠滅しないと」
「あ……う、うん」
 空也に急かされて、熱々のコロッケをかじる。
 揚げたての油とホクホクのお芋が、口の中でなんともいえないおいしさを作り出す。
 ソースをかけなくても本当においしい。
「──熱ちちっ!」
 慌てて口に入れたのか、空也が口を抑えてじたばたと足を鳴らして身悶えている。
「く、空也?!」
「あぢぢ、お、おじさん、水くれ、水っ」
 おじさんが呆れてコップに入った水を空也に手渡すと、空也は喉を鳴らして
あっという間に飲み干した。
「ぷふわーっ、助かった……」
 空也がほっとため息をつく。
「もう、注意しないとダメだよ、空也」
「はーい、反省しまーす」
 私たちはお互いの顔を見合わせて笑った。

 私と空也、2人だけの秘密をお腹の中にしまってから、私たちは買い物の続きを
して家に帰る。
 すっかり陽は傾いて、西の空が紅く染まり始める時間だった。
「明日も晴れそうだね」
「うん、でもって暑くなりそうだね」
 明日も朝からみんなのご飯を作って、掃除をして洗濯をして、それでもって
お昼ご飯を作って……そんな代わり映えのしない日常が繰り返されるのだろう。
 でも、そんな日常がいかに大切か──私は最近、この普通の生活の意味を
身を持って経験しているような気がする。
 そして、こんなおだやかな時間が少しでも長く続いてくれればいいと、私は思う。

 ふと振り返ると、私と空也の影が地面に長く伸びていた。
 その空也の影の横に、自分の影が重なるようにちょっとだけ距離を寄せてみる。
 ちょうど、二人の影が手を繋いでいるように見える距離。
 まるで子供みたいな遊びだけど、これは家に帰るまでの私だけの秘密の遊び。
 空也に「手を繋いで」なんて直接いったら笑われそうだから、せめて
こうして、影だけは二人で手を繋いで帰ろう。
「あ……明日も、いい日になるといいね」
 私は空也の影と繋いだ手を、ぎゅっとにぎりしめた。




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コメントどうもありがとうございます。

★我林 さん
ともねえはいろいろな意味でギャップが面白い
キャラクターだと思います。
ちょっとこわもての外見と少女趣味な性格嗜好、
家事万能の一面と、指輪の戦士としての一面、
いろいろな相反するものが同居しているというその
ギャップですね。
ですからほのぼのとしたお話ですが、そこに
ともねえの決意といったものを対比させて書きました。

★全姉連総裁 さん
いつもトラックバックありがとうございます。
毎回全姉連さん経由で来てくださる方が大変多く、
ありがたいことです。
即興に関しては6/7分のエントリーでも触れています
ので、よろしければそちらもごらんください。

★カズィー さん
いつもコメントありがとうございます。
早売りは東京だとやはり秋葉原の書店が早い
ようですね。
横浜近郊だと、まんがの森とかアニメイト、もしか
すると有憐堂あたりも。
(昔のことなので今は状況が違うと思いますが)
いずれにせよ15日には確実に店頭に並びますので
もうしばらくお待ち下さいませ。

★真田向太郎 さん
どうもはじめまして。
ともねえの戦いの根拠って、やっぱり家族や大切な
人を傷つけたくない、という想いがあると思います。
「番外編」第三巻でもともねえの戦うシーンを
書きましたが、
そこの部分を忘れないように気をつけました。
よかったら手に取って読んでみてくださいね。

はじめまして

初めてコメントをつけさせていただます。真田と申します。小説、拝読させていただきました。
なんとも言えない温かい読後感の残る作品でした。家族と共に過ごす日常を守る為にともねえは
戦ってるんだなぁ……。
小説3巻も楽しみにしていますねっ☆ それでは。

さすがっす

 まさかブログで佐々宮さん作の小説が掲載されるとは思いませんでした。ブログってこういう使い方もあるんだなあと改めて思った次第です。
 そういえば、第3巻発売間近ですな。早くゲットできそうなところにこれからマークしとかないとなあ(爆)

さっそく読ませていただきました。
これで即興とは。楽しませてもらいました。
番外編3の発売目前ですね。楽しみにしています。

なごみますねぇ

 こんばんは。早速読ませていただきました。クロウとの戦いの場合もありますが、ともねえメインだとやはりなごみますね。ともねえの日常のほんの1コマですが、柊家への思いがすごくでていると思います。
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PROFILE

佐々宮ちるだ(Tilde SASAMIYA)

  • Author:佐々宮ちるだ(Tilde SASAMIYA)
  • 19XX年埼玉県出身。おひつじ座・O型・ゲームやアニメのノベル、シナリオを書きながらゆるゆると生きてます。商業誌で漫画は描いておりません(苦笑)これまで手がけてきた作品についてはこちらをご覧くださいませ。小説およびシナリオ、企画などのお仕事を広く承っております。ご依頼、ご相談などはstargazer★myad.jp(★をアットマークにしてください)までよろしくお願いします。
    ※現在、2017年初夏以降のライトノベル・ゲームシナリオなどのお仕事を募集中です。
     サンプルテキストなど用意しております。上記アドレスまでお気軽にご相談ください。
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